ITこそモノ作りの中核

2012 年 1 月 4 日 今井 明徳

 IT化に向けてソフトのパワーが今後の盛衰を分けるという話題です。ソフトウエアは目に見えないものですが、特にITと営業活動を結びつけたりサービス提供にソフトの利用を行ったりとハードウエア機器と結びつけて顧客満足度を向上させるための、いわば食事を美味しくさせる刺し身のツマであり香辛料のような位置づけのように見えます。しかし、このソフトの良し悪しにより顧客満足度が上がり企業が成長していくか、または衰退していくかというポイントの中心の役割をしています。これらを担当するソフト技術者への価値観をどのように考えるかが海外の企業と異なり、具体的なIT化戦略の投資や推進が大きく違ってきているように思われます。コール名誉教授のコメントはこれらの点を指摘しています。

ITこそモノ作りの中核 ソフト力の勝負

ロバート・コール名誉教授(カリフォルニア大バークレー校)へのインタビュー。コール名誉教授は米ミシガン大、カリフォルニア大バークレー校教授を経て2003年から現職。日米欧の自動車・電機産業に詳しく、同志社大共同研究員も務める。74歳

Q.スマートフォンの急速な普及などITが社会の姿や企業の経営を変えています。

「ITの発展は情報伝達のあり方を大きく変えた。企業の製品・サービス開発ではクラウドコンピューティングの普及が大きな商機を生み出した。ベンチャー企業も巨額投資をせずに、大企業と同様に最新のソフトを機動的に利用できるようになった」

「ソフトを業務効率化やコスト削減のための補助的手段とみる考え方が一部に残るのは残念だ。アップルやグーグルを見れば、ソフトこそが中核技術だとわかる。IT企業だけではない。独シーメンスの開発部門は半数以上がソフト技術者だ。製造業や小売業でも成功企業はITを戦略的に活用し、売上拡大や顧客獲得、サービス創出に生かしている」

ソフト力の勝負

Q.日本企業は世界のIT市場で存在感が薄く、製造業でも円高で苦戦しています。

「日本は強みであるモノ作りにこだわるあまり、世界の潮流を見失っていないか。官民問わず、あらゆる分野、業界でITは組織や業務のあり方、スピードを変革する原動力となっている。中国や韓国の企業の攻勢を受けて、『付加価値が高い分野で競争力を維持する』という方針を掲げる日本企業が多いが、ITこそが付加価値向上のために最も必要な技術だ」

「統合されたハードとソフト、サービスが顧客満足を高め、収益拡大をもたらす。アップルの成功が証拠だ。中韓企業の攻勢で、ハードの差異化で優位を保てる期間はますます短くなっている。ソフトを軽視したモノ作り回帰は、非現実的な選択肢だ」

Q.日本企業のIT活用での課題は何ですか

「人材育成だ。日本は世界に通用するIT技術者の層が薄く、経営者の理解も欠けているようだ。韓国も同じ問題を抱えてきたが変化が出てきた。サムスン電子はトップがソフト力向上を掲げ、幅広い部門の技術者にソフト開発を学ばせるなど具体的に取り組んでいる。数年後には成果が表れるだろう」

「日本企業ではソフト開発部門や技術者への評価が相対的に低く、IT企業は下請けのように扱われてている。特徴的な製品・サービスを生み出し、顧客満足度を高めるソフト開発力を自前で育てて社内に持つべきだ」

「ベンチャー軽視も改める必要がある。日本にも優れたベンチャー起業家はいるが、米国に比べて数が圧倒的に少ない。優秀な人材が大企業への就職を選ぶのは、起業で得られる利益が少ないからだ。正当に評価されれば、有力企業が生まれ、技術も人材も育つ」

危機感が足りない

Q.日本でも問題意識をもつ経営者は多いはずですが、変革が進まないのはなぜでしょうか。

「1960年代に自動車産業の研究で訪日した当時、日本企業は経営者から現場の従業員まで危機意識をもって仕事をしていた。『欧米に追いつけ、追い越せ』が動機だったかもしれないが、情報への感度が高く、意思決定や実行も迅速かつ的確で戦略的だった。それが日本の経済成長を支えていたはずだ」

「今の日本企業や日本人は課題は口にするが、当時に比べると切迫感が薄い。豊かになったせいだろうか。韓国や中国の企業は急速に力を付けているが、健全な危機意識をもって迅速に変革できれば、日本企業は十分に競争できる。ITはその重要な武器となる」(日経 2011/12/30)

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